立川シネマシティの音響と『はじまりのうた』

好きな映画は何ですかと聞かれると、反射的にオタクライクな早口言葉で「シェフロイヤルテネンバウムズはじまりのうたデスプループ」とノーブレスで答えてしまう。そこに時々wet hot American summerやGotgが入ってくるのが僕の映画の至高なのだけれど、そんな大好き映画はじまりのうたが立川シネマシティでリバイバルという事で会社を抜け出して見てきた。もう本当に最高。脳が完全にくらくらしてしまった。好きな映画を好きな映画館で見るという行為の素晴らしさを久しぶりに味わった気がする。シネマシティがあるから僕たちは多摩地区から引っ越せないでいる。

はじまりのうた BEGIN AGAIN(字幕版)

はじまりのうた BEGIN AGAIN(字幕版)

  • 発売日: 2016/02/10
  • メディア: Prime Video
 

はじまりのうたはシンガーの彼氏がバカ売れして浮気された同じくイギリス人シンガーソングライターのグレタと、その歌に心を奪われてしまった落ちるところまで落ちた音楽プロデューサーのダンがニューヨークの街を舞台にアルバムを作成するという恋と音楽の映画。劇中では沢山の音楽がBGMではなく、主役として出てくるのだけれど、それの音楽を音響最高の立川シネマシティで聴いたらもう本当に最高。シートに埋もれてビールを飲みながら見ていても、どうしたって身体がリズムを刻み始めてしまう。ゆっくりとした、身体に染み渡るようなキーラナイトレイの歌声も驚異的で、もうお手上げ。降参。

個人的映画史に残るようなシーンが目白押しというところもはじまりのうたがヤバい映画である理由でもある。耳だけじゃない。目でも幸福が水晶体を突き抜けて脳に流れ込んでくる。得にライブハウスでダンが初めてグレタの音楽を聴くところなんて最高以外の何物でもない。ギター一本でステージに立ち歌うグレタでも、ダンの耳にはドラム、ピアノ、チェロの音まで重層的に聴こえてくる。観客である僕たちも同じようにギター一本のサウンドから、バンドセットになったサウンドを聴くことになる。ここで一気にこの映画のギアが入る。この瞬間に音楽に乗れるかでこの映画に没入できるかどうかが決まる。他にも特筆すべきは一台のiPhoneにイヤホンを2本突き刺してグレタとダンが夜のニュースヨークを音楽をバックに歩き回るというシーン。本当に尊い。音楽によって日常が宝石のように輝く。大音量で音楽の流れるダンスホールでイヤホンを付けた2人だけが日常とは別の世界で2人っきりで生きているというシーンの素晴らしさ。

どうやって1台のiPhoneに2台のイヤホンを突き刺しているのかというとそういう器具があるのだけれど、これはもっと売れるべき商品です。みなさんこれを買って好きな人と同じ音楽を聴きながら散歩してみてください。世界は輝く。

グレタとダンのファッションも良い。デニムにニットみたいなボーイズライクなグレタのファッションはaikoの完全上位互換みたいだし、ブラックデニムにグレーのVネックTに無精髭というダンも最高。男はやさぐれていればいるほど格好がいい。素材の良さに相まってフェロモンダダ漏れで本当にヤバい。そこまで適当な格好をしているのに、足元はちゃんと革靴っていうのもニューヨークぽくて良い。

兎にも角にも全てが最高の映画なのだけれど、はじまりのうたは音と恋だけの話ではない。グレタが元恋人のデイヴに送った曲『lost stars』がこの映画のメインテーマで、ニューヨークという宇宙に散らばっている音楽家をひとりひとり集めて、バンドメンバーとしていく過程なんて文字通り彷徨う星々がお互いを見つけていく過程でもある。恋人の浮気されたグレタも妻に裏切られたダンも彷徨う星で、そのふたりが謎の引力によって惹かれ合う様なんてもう。良すぎて言い表せない。

シネマシティを出ても余韻が続きっぱなしだったので、Spotifyでサントラを聴きながら駅まで歩いていたのだけれど、周りの風景が本当に宝石のように煌めいて見えるから不思議。シネマシティマジで最高。もう本当にそれだけ。良い映画に良い音楽、良い映画館ってそれだけで何者にも勝る奇跡だよ。