やられなくてもやりかえせ|栗原康『アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ』

アナキズム――一丸となってバラバラに生きろ (岩波新書)

あらゆる正論にファックユー。問題を経済に還元させてはいけない。今回の件で明らかになったのはこれだけだ。「制御できない力がある」。

テレビも見ないし政治にも一切関心の無い奥さんが最近パンクっぽい事を言うので、こいつはもしかしてアナーキーなのではと思いアナキズムに関する本を読んでみたら、これが最高に面白かった。最近読んだ本の中でも最高に面白い。何が面白いって作者が完全にぶっ壊れている癖に、バックグラウンドと知識がはっきりとし過ぎている。BRUTUSか何かで時々『危険な読書』という特集本が出てるけれど、正しく危険な読書体験だった。栗原の完全に危ないドライブ感の文章で、マジョリティの思想では無いアナキズムに纏わる思想をわかりやすく説明しているのだから、ふわふわしている精神状態でこの本を読んだら今後中指を立てて社会と向き合う事になる事請負い。読書体験として満足してしまう程の面白さだったのだけれどパンチラインの宝庫であり、純粋に勉強にもなったので少しまとめておきたい。

アナーキー・アナキズムとは何か

最近では京都出身の強面ラッパーAnarchyとか、オサレブランドmountain researchのプロダクトにも良く出てくるアナーキーという言葉だけれど、そもそもそれって一体なんなのか。簡単に説明すると、誰にも統治されないという事で、良く「無政府主義」と日本語に訳されるのは政府が統治するという考えが一般的だから。でも本来の意味で言えば別に政府だけでは無く、会社や家族、思想全てにおいて誰にも支配されないという事なので、「無政府主義」という狭い範囲のものではない。さらに詳しく哲学的な考えで読んでいくと、アナーキーの語源のアルケーというのは「根元の始まり」とか「根拠」的な意味を持つのでそれに否定する接頭語anをつけたアナーキーは「根拠のない事をする」という意味でもある。もうこの時点でやばすぎる。

アナキストが黒い服を着る理由「ブラック・ブロック」

良くデモが暴徒化して街を破壊しながら練り歩くみたいな海外の映像を見ることがあるけれど、彼らだって何も考えずに街を破壊しているわけではない。いや実際にぶっ壊しているときにはもう完全にアナーキーだから全く根拠も何も無くぶっ壊しているので、何も考えていないと同じなんだろうけれど実際には彼らはあるトリックをキメている。それがブラック・ブロック。ブラックブロックっていうのは、真っ黒の服装をした集団として登場し、その中の何人かが大暴れをして街を破壊する。そんな事をしていると警察や軍隊が鎮圧にくるので、街を破壊していたアナキストたちは何食わぬ顔でしれっと、何もしていない真っ黒の服装をした集団の中に紛れ込む。そうなるとほとんど全員が同じかっこいうをしているのだから誰が街を破壊した犯人だか分からない。そうなるともう真犯人を捕まえる事が出来ないというトリック。有名なアノニマスが全員同じ仮面に同じ服装をしているのもブラックブロックの一種なのだ。

ヤバいラインの宝庫

アナキズムについての本ではあるのだけれど、それよりも何が良いって文圧の凄さ。文章でおええってなるのって舞城王太郎とか、釣歩日誌のGnuさんとか、植本一子が時折見せる狂気の文章なんだけれど、そのラインナップに引けを取らないドライブ感。完全に自分でも制御不能な状態でキーボードをぶっ叩いている姿が想像出来て最高。

例えば環境問題についてのアナキズム的な視線から述べる章ではプリウスをここまでこき下ろす。

えっプリウスにのれば、温暖化は解決できる?えっハイブリッドに生きろ?うるせえよ。アナキストは車を燃やす。将来も先駆けもまっぴらごめんだ。そんなもん燃やして、燃やして、燃やしつくしてやれ。オー・マイ・プリウス、アーメン!

突如現れる「アナキストは車を燃やす。」とかいう本当に意味の分からない文章に脳がクラクラする。アーメン!

他には栗原さんの言葉ではなくてドイツのアナキストの引用にはなるのだけれど、アナーキーで居たいけどそんな事僕には出来ないよっていう人に向けての文章がすごい。

現在と未来の間に隔たりがあるなど、もはや私たちは思っていません。私たちは知っています。「ここが新天地でなかったら、もはや新天地などどこにもない」ことを。今この瞬間に行動しないなら、もう絶対に行動することなどないのです。

やっぱり思想家とかアナキストは文章で誰かの思想や生き方をジャックしていく人間達だから、言葉の厚みが違う。なんというかヤバいのだ。

アナキストとして

僕は決して表立ってアナキストですと言えるほどのアナーキーさはではないのだけれど、思想としてアナキズムは面白い。僕はアナーキーであれと言われればそんなの面倒だから社会システムに従って生きたくなるし、社会システムに従ってい生きろと言われれば絶対に従いたくない。社会システムの中に組み込まれても、自分の心は誰にも従わないで、自由に生きるってことも可能だと思うのだ。要はアナーキーなんて心の持ちようだから、黒い服を着てマクドナルドの窓ガラスをバールで粉砕しなくても、信号で止まったプリウスをひっくり返して火を付けなくても、大声で叫ばなくてもおれはアナーキーだファックユーって思っていればもうそれは十分アナキストっていう事でいいのだ。思想は人それぞれだけれど、ひとつでなくても良いのだから、少しくらいみんなアナキズム的な思想を持っていても良いと思う。

アナキズム――一丸となってバラバラに生きろ (岩波新書)

アナキズム――一丸となってバラバラに生きろ (岩波新書)

  • 作者:栗原 康
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/11/20
  • メディア: 新書