現代アートという魔物について|小崎哲哉『現代アートとは何か』

アートジャーナリストの小崎哲哉の書いた『現代アートとは何か』という本が面白い。

現代アートとは何か

現代アートとは何か

  • 作者:小崎哲哉
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/03/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

ここ最近は現代アート初心者によくおすすめされる本を中心に読んでいたので、現代アートの不確かな輪郭をなんとなく分かった気になってはいたのだけれど、僕が知っている現代アートの世界はまだまだごく一部に過ぎないという事を強烈に脳に叩きつけられた。危ない危ない。もしこの本を読まないで現代アートについて分かった気になっていたらそれはもう本当に恐ろしい事になっていただろう。アートの世界はこの世の唯一の楽園サイコーとか思っていた僕に、この本はアートの世界は札束で殴り合う世界という事を教えてくれた。「現代アートよく分からない」と本気で思っている人にはおすすめの入門書です。読んでいて普通に面白い。

本としての良さ

内容について語る前に、純粋に本としてよく出来るている。丁度良いサイズ感に、ソフトカバーにざらざらとした紙。その紙の中にアートの本にも関わらず、大部分をテキストが埋めている。テキストが沢山詰め込まれている本は個人的に信用できる。結局のところどれだけこの世界にのめり込んでいるかという事は声になって文字になる。そして最終的にはテキストになる。本を持った感じもとてもよく、本の世界の没入していく感覚を一切邪魔しない。河出書房のアートの本には他にもいくつかあるのだけれど、他の本も読んでみようと思える。実際にいくつかの本を予約した。楽しみ。

『現代アートとは何か』の内容について

この本はアートジャーナリストの第一人者で現在は京都の大学で何かをしているらしく、さらに地方の芸術祭でディレクター的な事をしているらしい小崎哲哉によって書かれた、ウェブマガジン『ニューズウィーク日本版』の連載をまとめたものである。小崎さんを全く存じ上げないのだけれど、めちゃくちゃ色んな事を知ってそうなおじさんという認識で良いと思う。文章を読んだ限りでは誠実そうなのがポイント高い。連載中のタイトルが『現代アートのプレイヤー達』である事からもわかるように、現代アートを牛耳る大富豪コレクターや名門ギャラリー、著名なキュレーターアートワールドでの役割を説明しながら紹介していくのが前半。後半はこの本のタイトルの通り、現代アートとは何かという事についてフォーカスしていく。後半の現代アートとは何かという部分についてではデュシャンが大きな存在として語られていく。正直この後半パートは何言っているのかわからない部分も多く初心者の僕には難しい部分もあったのだけれど、前半のプレイヤー紹介は純粋にゴシップとして楽しめる。というよりもこんなに狂った魑魅魍魎がワイワイやってるアートワールドが健全な聖域な訳がないと思える。

リッチなコレクター達

前半のプレイヤー紹介で一番面白いのが間違いなくコレクターの紹介の話。アートワールドに住み付いているコレクター達のヤバさに震える。例えばカタールの首長の娘マヤッサ王女は齢30にして年間予算約1000億円のカタール美術館庁を率いて、世界中の有名アートを買い集めている。

ルイ・ヴイトン財団の理事長アルノーは歌舞伎町でホストに貢ぐルイ・ヴィトンの財布が売れた金やドンペリの利益によって得たお金でアートを買いまくり、そのライバルでありアートワールドのキングであるピノーさんは総資産が1兆7千億円。これらの3人はあくまで中心的な人物なだけでこんなのがゴロゴロいるのだ。オイルマネーで潤う中東の王たちや各国の特権階級の人間達がひしめき合っている様が描かれる。

思った事

コレクター以外にもキュレーターやアートディレクター、アーティストも様々登場してきて面白いし、ああアート界隈ってこういう事なのかとも少し思ったりもする。

今まで読んだ小山登美雄さんの書く優しいアート界隈のお話とはまるで違う書き振りに驚く。初心者がアートに興味をもって自分でも買おうかなと思わせてくれるのは間違いなく小山さんの本だけれど、刺激的なのはこっちの本だと思う。

更に言えば自分はアートワールドに属しているのかという事も気になる。日本人の若手作家の作品はいくつかもってはいるけれど、それはアートワールドには属してさえしなくて、もっと次元の違うところであいつらはバチバチと札束を燃やして暖をとっているのだ。そういう世界が確かにあることを認識した上で僕はどうすのか。今までと同じように好きなアートを買うのかという話になるのだけれど、それは変わらずに買うことになる。なぜならお上のアートワールドパイセンがイキっていても僕には全く関係のないことで、好きな作家の絵を自分の部屋に掛けて、毎日眺めたいから僕は今まで通りお金を払ってアートを買う。

アートは資本主義と複雑に関係しているというふうに、この本にも書かれているけれど普通資本主義の前に社会がある。先ずはアートは社会との関係性の中で資本主義に繋がるはずだ。その点僕はどうだろう。ほとんど全くといっていいほど社会との接点がない。社会がないから資本主義もない。そもそも僕には金がないし、金も別に欲しくない。だから僕は大丈夫です。自分の部屋の中に僕だけのアートワールドを展開させて死ぬまで幸せに生きるのだ。