the pool

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学生たちの夏休みが始まり、朝の通勤電車はいつもよりも少しだけ空いて、平均年齢が急激に高くなった。夏の朝の水分を多分に含んだ空気を通して伝わる光が、車窓から車内入り込み、電車内は吊革に捕まって眺める車窓からの風景とほとんど同じ明るさになる。時々中と外の境目がわからなくなるような瞬間がある。そのような通勤電車の中で僕はやっと『ストーナー』を読み終えた。

ストーナーという特筆する業績を残していない、ぱっとしない大学教授の始まりから終わりまでの物語だった。名も無き人の一生が淡々と語られる。その無機質さとは裏腹に、農場の空気や土の匂いや、愛や恋といったものが燃やす炎の鮮やかさが鮮明に表現されている。白黒の物語が進んでいくなかで、急にその世界の色彩が艶やかに現れる瞬間があって、その時の世界の美しさを僕は知っているような気がした。最も素晴らしい小説のひとつであることは間違いない。

ストーナー

朝の通勤電車で読み終えたストーナーの事を考えながら午前中の仕事を済ませて、同様に午後の仕事も済ませる。また仕事に一切の興味が持てない時期のようで、打ち合わせをしていても何も頭に入ってこない。何が重要な事なのかも理解できないので片っ端から会話の流れをメモに起こす。いつかやる気は出てきた時に読み直せばいい。

いつもより少し早く家に帰り、屋上に溜めてあったプールに浸かる。太陽光で暖められた適度な水温で、屋上から夕日が沈んでいくのを眺める。