アトピーと生活

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B.I.G.JOE『監獄ラッパー』感想

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BASARA BOOKSで買った『監獄ラッパー』を読んだ。最近よく聴く耳触りの良い、文系ラップやシティポップラップとは根本から違う、ギャングスタラップのようなタフなラッパーの獄中での日記のようなものだった。個人的にはなかなか絶妙な作品で、オススメ出来るかどうかと言われたら分からない。

監獄ラッパー (新潮文庫)

監獄ラッパー (新潮文庫)

 

著者のB.I.G.JOEは札幌ヒップホップシーンの生き字引のような存在ということが書かれてあった。そんなこと言っても北海道といえばブルーハーブでしょうよとか思いながら本作を読み進んでいくと、ブルーハーブルのMCイル・ボスティーノもB.I.G.JOEのステージを見て影響を受けたと書いてあり、B.I.G.JOEのBIGさを垣間見る事が出来た。実際にolive oilを含めた3人で曲も出している事から、2人の間にはリスペクトが存在しているように思える。余談だけれど、数年前のりんご音楽祭で、初めて見たブルーハーブの形容し難い格好良さを今でも覚えている。

B.I.G.JOEは2003年にオーストリアでヘロイン密輸容疑で逮捕される。その結果27歳から33歳までの6年間を異国の地の獄中で過ごすことになる。その6年間の留学生活で彼が感じた事、学んだ事がつらつらと、誰かに読まれる事を前提とした文章で書かれている。誰かに読まれることを前提として書かれている文章には、いくつかの問題がある。その中の1つが自分を大きく見せようという誇張表現。それに加えてラッパーという自身のアイデンティティも相まって、ここに書かれている事を全て事実として受け止めるのは難しい。それでも彼は正直でいることに出来る限り努めているようにも感じる。

本の終盤のあるエッセイの中で、彼は現在の社会システムにおける問題点や、犯罪論についての持論を展開するのだけれど、地元の怖いパイセンと香港のシンジケートに騙されて、まんまとヘロイン密輸容疑で捕まった彼が何を言っても浅く聞こえてしまう。まるで説得力が無い。おいおいそんな胡散臭い話に乗っかるなよと、突っ込みたくなるような危険でアホくさい与太話に、彼は貧困や仲間の大切さ、自己犠牲などを理由に乗っかっていくのだけれど、それが寒い。めちゃくちゃ寒い。僕が感じるこの寒さは、生活環境からくるギャップなのだろう。相当に過酷な環境で彼は生きていたのだ。父親はヤクザで蒸発し、JOE本人はポン引きからハスリンなどといった、いわゆるストリートビジネスに手を染める。そこまでしても金がないという世界で生きていれば、正規雇用で特に不安も無く生活を送る僕との間にギャップが出来るのは当然だろう。この彼と僕との間にあるギャップの存在を認知することが出来たのが、この本の優れたところであったように思う。

根幹を成す文章に至っては、今までの人生で、ほとんど本を読んでいない事が分かるほどに拙い文章になっている。そして、その拙い文章を用いて、自分の文章を上手く見せようとしている部分がチラチラと目に付いてしまうのも、読んでいるとぐったりしてしまう原因かもしれない。ラッパーの文章というと、ECDややけのはら、いとうせいこうなどの個人的文学的レジェンドがいるせいで、余計に文章の技術のなさが目立ってしまう。

かと言ってつまらないかと言われれば、そうでもない。獄中日記としては楽しめるし、異国の獄中で、唯一の日本人という過酷な環境でもポジティブに生きる様は素直に美しい。獄中の電話で日本と繋がり、電話口にラップをし、その音声を録音して日本でリリースするという謎の行動力も読んでいて感服する。特に面白いのが、獄中での他の受刑者の様子が詳細に書かれていることで、イルでドープなジェイルの空気をそのままパッケージングしましたというような鮮度感。さすがはラップ、鮮度が抜群ですね。

サランラップ 22cm×50m

サランラップ 22cm×50m

 

獄中日記と、ヒップホップについて書かれた文章として読めば面白いのだけれど、彼が獄中で成長していく様はなぜかとても嘘くさい。あと獄中生活をジェイルライフというのも、ジェイルという言葉を多用するのも、読んでいるこっちが恥ずかしくなるのでやめてくださいとか思ってしまう。とは言え、実際にひとりの人間が生きた時間の輝きの美しさは、どうしたって無視できない。その意図せずに浮かび上がってくる美しさがこの本の本質であるとも思う。あ、ここまで書いてわかったのだけれどこれは獄中ヒップホップ版銀色夏生のつれづれノートです。

出店にトライ! つれづれノート35 (角川文庫)

出店にトライ! つれづれノート35 (角川文庫)

 

ヒップホップの本で他に興味のあるものは、漢パイセンの俺強え自伝と、本著の後書きでも紹介されていた『ヒップホップの詩人たち』くらい。ヒップホップの詩人達は特に興味のある本なので、近いうちにポチッてしまうと思う。

ヒップホップ・ドリーム

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  • アーティスト: 漢 a.k.a. GAMI,GRADIS NICE,Drum Gang,DJ BAKU,LORD 8ERZ,Clyde Strokes,Hitman D,I-DeA,DJ SCRATCH NICE
  • 出版社/メーカー: 鎖GROUP
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: CD
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ヒップホップの詩人たち

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監獄ラッパー (新潮文庫)

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