アトピーと生活

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舞城王太郎「されど私の可愛い檸檬」感想

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舞城王太郎2ヶ月連続リリースの第2弾。短編3編から成る家族をテーマにした短編集。読書感想文を書くことを習慣にしようと思ってタイピングしているのですが感想を書こうとすると難し過ぎて全く理解出来ていないことに気づく。それでも数をこなせばいつかちゃんとした読書感想文が書けるようになるかもしれないのでとりあえず書く。

されど私の可愛い檸檬

されど私の可愛い檸檬

 

トロフィーワイフ

扉子の姉の棚子は旦那の一言でアイデンティティクライス状態。その状態で西暁町で他人に八つ当たりをしまくるという話なのだけれど、淵の王の1章と同じような舞城王太郎的ホラー。ただ本作と淵の王で異なるのは淵の王は主人公側の人間が支配される側だったのだけれど今作では支配する側だという事。支配される側もする側も結局どっちも幸せなのかもしれないなと思う。

人の幸せは状況によるけれど、同時に、状況によらない。皆が幸せだ。それだけの事であって、そういう人間の強かさを頼もしく思うだけでいい。

そもそもの話、幸福とはそれを感じる人間のものであって、他人が観察するものは全て偽物なのだ。

そんな事を言われるとそう思えてくる。幸せそうだなとか不幸せだなとか人を見て思うこともあるけれど、そんなものは僕から見た偽物の幸せでしかないのだ。じゃあお前はどうなんですかと自分に問いただすと確かに僕は基本的には幸せで、それは昔の僕も今の僕も未来の僕も同じくらい幸せなんだろうなという事に気付く。

分からなかったのは母親の存在。トロフィーワイフと棚子という名前のシンクロ二シティなど。棚もトロフィーも飾られるものだから同じような意味を持っているという解釈で良いのでしょうか。読解力の無さが。

ドナドナ不要論

ドナドナとはあの有名な歌で、悲しみの事で、生きているうえで勝手に感じる悲しみ以外を率先して感じる必要があるのかというお話。今作で一番家族っぽさを感じた話でした。この世に起きる全ての悲しみは悲しみというひとつの感情に収束する事なく、悲しさの中のも救いや希望、正反対の憎しみや苦しみみたいなものも含まれている。いつ死ぬか分からない奥さんへの愛情と気付いたら死んでいる親戚達の対比。これから生きるのだという最期のシーンは確かに悲しみとか嬉しさとか色んな感情が入り混じっていて、感情が1つに収束する事なんて普通の生活ではないのだと思う。家族とか言って1つの言葉に収束させてしまうけれど、そこには母や父や兄弟や姉妹、さらには自分の子供などがいて家族なのだ。全員がそれぞれ自分の考え方や哲学に基づいて生きているのだからいろいろある。でもそれを含めて家族で、そこには幸せだったり苦しみだったり様々な感情が含まれているのだ。

されど私の可愛い檸檬

表題作。一応本作は家族をテーマにした短編集という事なのだけれど、されど私の可愛い檸檬には家族らしい家族が出てこない。最後の最後で家族が出来るけれど、家族っていう感じも特にしない。この短編が家族がテーマの短編集の書き下ろしで表題作なのだからきっと意味はあるのだろうけれど分からない。難しすぎませんか。誰か解説をしてくださいとか思うけれど小説の正解が知りたくて読んでいるのでは無いから問題なしですとも思う。小説は読者の手元に渡った瞬間に読者のものだから何を感じても何を思ってもそれは全部正解なのだと思う。話が逸れたけれどとても美しい表現があって花火の音を

咲いた花の垂れ落ちる音

と文字にしていてこの一節でやられてしまった。クラクラくる。舞城作品は突然一文で僕たちの脳をノックアウトさせに来る事があってその感じが堪らない。パンチドランカーです。

この話の主人公みたいな人は結構いるんだろうけれど、いるいるみたいな話ではなくて、特に何も変わらない普通の話なのだ。人間なんてみんなそれぞれ違う中で一般的と言われている人たちばかりを主人公とするのはそれこそ普通じゃない。誰だって主人公だし誰だって自分の中の正しさで生きている。どちらかと言えば社会から疎外されることの多いタイプの人から見たら大多数の人々で作りあげた社会なんてそれはもうとんでもなく訳の分からないものなのだろう。読者である僕たちには主人公の脳を通してその世界を知るのだから読んでいる途中に変な社会だなとか思ったりもする。いつもの感覚とのズレみたいなものを感じてドキッとする瞬間がある。

舞城王太郎「されど私の可愛い檸檬」は純文学に寄った作品だし分かりやすいかと言われれば分かりにくい。脳に直接来る文章ではあるのだけれど僕の脳はこの小説の裏にある難解なテーマまでたどり着けない。今のところは。でもいつか触れられればいいなと思う。個人的に1番好きなのは表題作のされど可愛い私の檸檬。人間そんな簡単に変われてたまるかよみたいな本流とは関係の無いところで悪い意味でポジティブなメッセージを受け取ってしまう御都合主義のつるんつるんの脳なのだ。

されど私の可愛い檸檬

されど私の可愛い檸檬