玄関に張り紙/庭に火の玉

結構なボロアパートメントに住んでいる。築40年くらいで管理は全くと言って良いほど行き届いていない。管理会社も管理をしないし誰も管理をしない。この管理社会においてそんなことがあり得るのかというくらい誰かが誰かを管理するのを諦めた集合住宅。都内のまあまあな所にも関わらずに家賃が安いのには理由がある。5部屋しかない小さなアパートメントの1階にピュアなおじいさんが住んでいるからだ。このピュアなおじいさんはとてもピュアなので上の階の住人と数々のバトルをしてきたらしい。そしてこのアパートメントのシステムは勝ち残り制。つまりピュアニキは無敗街道真っしぐらなのである。そして僕が今のピュアニキの対戦相手という事になる。ピュアニキは70歳くらいの独身貴族で髪の毛は金髪、しまむらで買いましたみたいなロックテイストのトラッカーキャップをいつも被っている。今まで3年ほど住んできてピュアニキとはいろんな事があった。ゴミを出した出してないで早朝から大喧嘩をし、洗濯機を回す時間を指定してきた事に反発した僕は夜中の2時に毎日洗濯をし、ピュアニキの愛車のママチャリに粗大ゴミのシールを貼ったりした。ピュアアニはいつも通りの作戦を実行して僕を追い出そうとしたのだろうけれど残念ながら僕は良心の呵責がない人間とか散々言われる例の精神疾患。僕は自分の苦しみについては無視出来るけれど相手の幸福は無視できない。道連れで相手を不幸にしれば僕の勝ちなのだ。犯罪ですよ!とか言われても困る。ここはイリーガルなエリアだしインターネットはフィクションだから。そんなこんなでお互いに仲良くやっていたんだけれどある日家に帰ると部屋に張り紙がしてある。読んでみると今までのことは水に流して仲良くしようといった内容の手紙。日和ったのか死期が近いのか分からないけれど僕が取る行動はたったひとつのように思えた。張り紙を手に取り玄関に入りダイニング、リビングを通過しベランダの窓を開けて外に出る。その手紙に火を付けてピュアニキの庭に投下する。終われないでしょピュアニキ。僕はジーンズの後ろポケットからタバコを取り出し火をつける。ピュアニキの庭には鎮火した半分だけ燃えて灰になっている手紙が転がっている。紙の燃えた匂いと煙草の匂いの向こう側に沈丁花の匂いがした。